「はぁ…」
廊下の端、教室の壁にもたれてまたもや溜息をついた。両手には水の入ったバケツ――何をしているのかって言わなくてもわかるだろう。今は登校初日の授業中で1時限目のHR、もちろん誰一人として廊下にいるわけはない。
これは体罰だ―――もはや数十年もの前に、教育基本法の改正によって廃れた筈の教育である。じゃあ何故今自分がこんな状況に置かれているかって?あのクラス担任、敷島朱里の教育法に体罰が「悪い」なんて文句は含まれてはいないのだ。俺以上に被害を被ったのはいつの間にか親友になった裕輔の方で、去年と同じく保健委員に担がれて保健室に運ばれてしまった。
裕輔の顔の周りに白い粉が舞ったのは覚えている。あれは黒板消しだったのかチョークだったのか…目にも留まらぬ速さで裕輔の顔を直撃し、そして奴は気を失った。
「みんな、人の話は静かに聞こうねっ!」
一連の出来事の締めくくりに放たれた朱里先生のその一言は、クラスの全員が彼女に逆らってはならないと悟らせるには十分だった…
………
……
(キーンコーンカーンコーン)
1時限目のHRの終了の鐘が鳴る。教室内で起こり始めた喧騒が廊下に響き始めた。
「じゃあこれでHRを終わりま〜す」
敷島先生の声が背中から聞こえ、教室のドアが開かれた。中から出てきた先生と目が合う。
「あら、高町クンはもう教室に戻ってもいいわよ、きちんとバケツは片づけておいてね」
さっき程までとはガラリと変わり機嫌よさげな雰囲気で彼女は博隆へと声をかけ足早に職員室の方へと行ってしまった。自分+αの人間がいなくなったことで随分とHRがやりやすくなったのだろうか、そんなことを考えながら博隆は流しへと水を捨てに行った。
 (チョンチョンチョン…チョンチョンチョン)
 「登校初日にも関わらず廊下に立たされた」という憂鬱な気持ちと共に、バケツの水を流していると博隆は誰かに肩を叩かれた。
「やほ〜! ヒロくん」
 元気な声で掛けられた言葉は幼馴染である中町春風(ナカマチハルカ)のものだった。この学校において、彼女は可愛らしいその風貌や親しみやすい性格により人気者であり、また学業においても割といい成績を収めている。そのおかげもあって入学してからしばらくして、生徒会の書記を任されているのである。
「春風か…ってことはやっぱり」
「はぁ〜い、博隆。 あなたこんなとこで何やってるのかしら?」
 春風がいると必ずもう一人の人物がそこにいる。博隆がそう思った通り、少し青みを帯びた黒い髪をなびかせその人物はそこにいた。




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